その他のこと4

所長の独り言(社会編) 


税理士界論壇 その1
(平成20年2月15日号)
日本税理士会連合会発行の「税理士界」(論壇)に掲載された論文を転載します。

近畿税理士会 下京支部 新開淳史

主題 「寡婦控除・寡夫控除の諸問題」
副題 「憲法違反か?社会的政策か?」

現行の所得税法における所得控除には多くの問題点が存在する。今回は「何となくおかしいが、まあ仕方がない」と考えて現状のまま維持されている所得控除、「寡婦控除」と「寡夫控除」について論じてみたいと思う。

T 導入過程

昭和26年、個人の特殊な人的事情に基づく負担能力の減殺を考慮し、また課税の公平を図るため、前年創設された不具者控除(昭和34年からは障害者控除と名称変更)に加え、老年者控除・勤労学生控除・寡婦控除が創設された。これらは所得獲得上、および社会的立場等において弱者の地位にあることによる配慮に基づくものである。また、その控除はいわば国家補助のような性格を有するものであり、所得の大小にかかわらず同額とすべきであるという観点から、当時は税額控除とされていた。
しかし、これら諸控除は昭和42年の改正により、扶養控除(昭和25年に税額控除から所得控除へ移行)と同様に所得控除に改正された。改正理由としては、@税額控除は斟酌の程度が理解できにくいこと、A一定限度額以上の所得者になると斟酌の程度が減少し、折角の追加的費用の意味が薄れると言う面があること、B税制の簡素化の要請に応える必要があることとされている。
その後、寡婦控除導入から30年経過した昭和56年に、やっと寡夫控除が創設された。民主近代国家は男女平等という観点から、寡婦に認められている措置を必要な範囲内で男性にも与えることとなったのである。
 そして平成元年には、特定寡婦控除が創設された。女手一つで子を抱えながら、家庭を支えている低所得者の寡婦に配慮し、その負担軽減を図る見地から、寡婦控除について8万円の特別加算を行ったものである。
 ただし、寡婦・寡夫控除ともに、「老年者でない者」であることが適用要件であった。しかし、平成17年分所得税より老年者控除が廃止されたことに伴い、65歳以上の老年者であっても寡婦・寡夫控除が適用できるようになり、このまま現在(平成19年10月)に至っている。

続く・・・

税理士界論壇 その2
・・・続き

U 現在の控除要件

現行の控除要件としては、寡婦控除(27万円)が@夫と「死別」「離別」後婚姻していない者または夫が生死不明で、「扶養親族」または「所得が基礎控除額以下の生計を一にする子」(他の者の、控除対象配偶者または扶養親族になっていないこと)を有する者、若しくはA夫と「死別」後再婚していない者または夫が生死不明で、合計所得金額が「500万円以下」の者とされる。 特定の寡婦(35万円)は、寡婦のうち、「扶養親族である子」を有し、かつ合計所得金額が「500万円以下」の者である。
これに対して、寡夫控除(27万円)は、妻と「死別」「離別」後婚姻していない者または妻が生死不明で、かつ「所得が基礎控除額以下の生計を一にする子」を有し、かつ合計所得金額が「500万円以下」であることとなっており、男性の適用要件の方が厳しいものとなっている。 

V 寡婦・寡夫控除の諸問題

そこで制度導入からの経緯を踏まえて、問題点を論じてみたいと思う。

1.年を取ると寡婦や寡夫となることが多いため、一定の制限をかけるべく、平成16年分の所得税までは「老年者でない者」(注:「老年者控除を受けていない者」ではない)が寡婦・寡夫控除の適用要件であった。ところが、平成17年分の所得税からは老年者控除廃止に伴って、65歳以上の者にも寡婦・寡夫控除が適用できるようになった。従来「老年者」とは、「65歳以上の者で合計所得金額1000万円以下の者」とされていた。「老年者控除」が廃止されただけで、「老年者」の定義規定を置くことの意義そのものは現在もあると思うが、「老年者控除における老年者」と同じ意味とされ、同時に消されたようだ。ただし、もし「老年者」の定義を消さなかったら、合計所得金額1000万円超の高額所得の老婦人だけに控除対象者が存在し、65歳以上で合計所得金額1000万円以下の男女が一切控除対象にならないことになる。そのため、実務的に「老年者」の定義規定を消したことは理解できるが、一般に65歳以上では寡婦や寡夫が多いのに、一定の制限はあるとはいえ、一律に年齢制限や所得制限を撤廃して寡婦・寡夫控除を与えるようになったのには疑問が残る。
2.寡婦控除と寡夫控除の適用要件の違いについて述べる。配偶者控除を例に挙げると、その控除の是非についてよく議論され、女性の社会進出の妨げになるから廃止すべしと言われることもある。しかし、これは女性からの意見が多く、次の点で男性が女性に比べて不利な取り扱いなのに男性からは男女間の性差についての意見はほとんど提起されないのが実情である。まず、遺族年金は寡婦には支給されるが、寡夫には支給されない。次に、母子手当はその名の通り、母親にしか支給されない。社会政策上、男女差が認められているのである。その上さらに所得税・住民税においても同じく、異なる取り扱いをしていいのだろうか? 憲法第14条第1項において「すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない」とある。 ただ、憲法第14条は国民に絶対的な平等を保障するものではなく、差別すべき合理的な理由がないのに差別することを禁止すると解されている。事柄の性質に即応した合理的理由のある差別的な取り扱いをも禁止したものとしてしまうと却って不平等のそしりを免れないからである。また課税要件の定立には立法政策上の裁量的要素が大であることが重視されている。しかし、立法府に裁量権があるといっても、男女差を認める税法については、裁量権を逸脱していると考える。

続く・・・

税理士界論壇 その3
・・・続き

配偶者控除は男女同等の扱いであるのに対し、寡婦控除と寡夫控除の間に差異を設けていることに憲法上の問題があると思えてならない。(注:福岡高裁では寡婦控除・寡夫控除適用要件の違いは憲法違反ではないと判断している) ただ、遺族年金は、過去数十年にわたる日本の家族関係の歴史や経緯から、女性にのみ支給が許されているものであり、社会政策上、男女差は仕方がない(将来は別である)と筆者は考えるが、寡婦・寡夫控除は毎年末の現況によって判断されるものであり、遺族年金と同じ性格のものとは思えない。

3.特定の寡婦について述べる。扶養控除を例に挙げると、平成11年分の所得税までは16歳未満の扶養親族(年少扶養親族)の扶養控除額に10万円加算したが、児童扶養手当の拡充によって翌12年分以降は廃止されることとなった。これは別の社会政策がある場合、重複して保護する必要はないものと判断されたものであろう。この点、特定の寡婦控除も、別途母子手当があることを鑑み、女性にのみ与えた追加控除部分は廃止されても良かったのではないかと考える。また、特定の寡夫という定義はなく、これも男女間で異なる規定となっている。特定の寡婦を維持するなら、特定の寡夫の規定を創設すべきである。

4.寡婦・寡夫控除適用における要件の複雑さを回避すべきである。適用要件の中に、寡婦控除は子でない扶養親族(孫など)がいる場合にも適用があるが、寡夫控除は子以外の扶養親族がいても適用がない。また寡婦・寡夫控除ともに、子が事業専従者であるにもかかわらず、所得が基礎控除(38万円)以下の場合には適用がある。特定の寡婦は、扶養親族である子がいる場合に限って適用があり、子以外の扶養親族しかいない場合や、子が事業専従者では適用がない。確定申告を行うに当たり、納税者がこのような他の所得控除に比べ複雑な規定を全て理解し、適用ミスのない申告がなされているかどうか疑問である。

5.給与所得者においては年末調整により控除されるが、扶養控除等申告書に記載することで、寡婦や寡夫になったことが事務担当者にわかってしまうなど、個人情報保護の観点から控除の適用方法の見直しが必要と思われる。

このように、多くの問題点をはらんでいる所得控除の中で、今まであまり論じられることのなかった寡婦控除・寡夫控除に絞って論じてみた。以前、立命館大学の三木義一教授に講演会の後、「寡婦控除と寡夫控除に差異があることは問題ではないですか?」とお尋ねしたのだが、「もともと寡婦控除しかなかった。後から付け足しでもらったのが寡夫控除だ」と回答されたことが印象に残っている。
                            以上

参考図書:所得控除の研究 日税研論集VOL52   
 財団法人 日本税務研究センター 所得控除の今日的意義 −人的控除のあり方を中心として− 税務大学校 田中康男 
 判例 H6.2.28福岡高裁・H5(行コ)27号



その他色々と本当は言えない事を書いちゃいます!
(平成19年7月)

最近、われわれの業界にも規制緩和の流れが出てきました。
 今、確定申告期などで行っている一般納税者に対する無料納税相談を税理士会以外の団体に請け負わせると政府が言い、いよいよ来年から実施されます。
 無料といっても、実は交通費+若干の手間賃(とても少ない)が当番税理士に支給されているのですが、これをもっと減額して一般に競争入札させるというものです。
 税理士会は、これを阻止するためになんと交通費さえも支給しないで、税理士にまさしく無料奉仕を強制させようとしています。無償奉仕の場合は、国の規制緩和にかからないからだそうです。
 しかし、税理士は最も忙しい時期にしかも、自分の事務所の顧問先のお客様を犠牲にしてまで、一般の納税者の相談を受けているのです。他の士業のように暇な時期の無料相談とはワケが違います。
 私も1年に1日や2日の無料奉仕なら仕方がないと考えていますが、3日や4日も忙しい時期に無償ですることには反対です。これは当事務所の有償で仕事を下さっている顧問先の皆様に申し訳ないからです。
 税理士会に対しても、強制召集ではなく、希望制にするとか、配慮をお願いしたいものです。